26 嫁入り唄(うた)

古老が語るねりまのむかし

本橋 正登(まさと)さん(明治44年生まれ 石神井台在住)

<蛇の目傘さして>

 私は、昭和12年に結婚しました。そのころの嫁入りの様子を、少しお話ししてみます。
 私もそうでしたが、そのころの結婚というのは、多くはお見合いでした。それも、家の格式とか年齢とかから、回りで話を進めて、形だけのお見合いをするのが普通でした。お茶を一杯出されて、ろくに相手の顔も見ないで帰ってくる。だいたいそれで決まったものです。
 お嫁さんは同じ村(昭和7年までは石神井村)から来ることはあまりなく、隣り村か、それより遠くから入ることが多かったものです。
 婚礼の日が決まると、花嫁さんは髪を高島田に結ってもらい、夕方近くに、両仲人、本家の代表、男兄弟か親戚の男衆など12~13人ほどの人に守られて、婚家先に歩いて向かいます。両親は行きません。
 迎える方では、屋敷の入り口まで出迎え、花嫁は相盃っ子(あいさかずきっこ ※)の焚くたいまつの間を、蛇の目傘をさして通ります。そして、お勝手口から座敷に上がりました。

 ※雄蝶と呼ばれる男の子と、雌蝶と呼ばれる女の子からなる二人組

<三三九度>

 婚家では、この日のために、1日か2日前から料理のできる人にきてもらい、材料をそろえて、ごちそうの準備を進めたものです(その後、魚屋さんなど専門家に頼む家が増えた)。
 式が始まり、三三九度になります。相盃っ子は、酒を盃に一度差しては立ち上がり、三度ずつ差します。このとき、お相伴人(しょうばんと)といわれる座持ち役が酒の毒見をしました。
 お相伴人は全体の進行を指示したり、司会までする重要な役目で、同じ村の組合(隣組のようなもの)の仲間から特に頼まれて出たものです。
 式が終わると、披露宴になります。花嫁、花婿、仲人が正面に並び、上座に花嫁方の客、下座に婿方の主だった人が着いて、酒と料理で夜を徹して宴会が続きました。この日は、婿方の親せき筋がほとんど全員集まってくるため、座敷に入りきれない若い人たちは、別座敷や物置などでも宴会を繰り広げたものです。

<嫁入り唄>

 婚礼に祝い唄はつきものですが、花嫁が花婿の家に向かう道中で唄われた唄があります。

 ~森が見えます あの木の森は かわいい殿は お待ちかね
 ~ちょいとのり出す 若姫様は 庭にゃ 鶴亀 五葉の松
 ~声はすれども 姿は見えぬ やぶにからまる きりぎりす

 第1節目は遠くから花婿の屋敷の森が見え始めた時の情景、第2節目はいよいよ屋敷に近づいた時、第3節目は到着を待ちかねる婿の心情を唄ったものです。

26 嫁入り唄(うた)

聞き手:練馬区史編さん専門委員 亀井邦彦
平成2年11月21日号区報

写真:野菜洗い(石神井川正久保橋から 昭和15年)