庭園を彩るユリ、カンアオイの仲間

牧野庭園だより

 まもなく、照りつける太陽の季節がやってきます。雨に潤った庭園のみどりはいっそう濃さを増し、強い日射しをさえぎられた地面は涼しく、積もった落葉は水分を含んで小さな草本たちを育てています。
 今回は、庭園に育つ草本類、32科110種の中から、ユリの仲間とカンアオイの仲間をご紹介しましょう。

ユリの仲間

 庭園では多数派のユリ科。25種もが生育しています。

 春早く、木々の新芽が開く前のつかの間に、地面へ届く陽光を集めるように花を開くカタクリ、ヒロハアマナ、ハナニラ、そしてバイモ。
 これらも、木々の新芽が開き、若葉のみどり輝く季節になると、ホウチャクソウ、アマドコロ、ドイツスズランといった花々にあわただしく主役交代します。また、この時期、ハランの厚く大きな葉をかきわけて地際をのぞくと、紫がかった茶色の、花と思えないような花が小さく咲いているのが見られます。これもユリ科です。

 雨に打たれる6月は、タケシマユリ、スカシユリが、ユリ科の代表のように誇らしげに大きく見事な花を開きます。
 夏に花を見せてくれるのは、ツルボ、ウバユリ、ギボウシ。花の咲く時にはたいてい葉が枯れてしまっているため、葉(歯)がないことをうばにたとえて名づけられたのがウバユリ。そして、つぼみの形が橋の欄干につける擬宝珠(ぎぼし)に似ていことから名づけられたのがギボウシです。危うく見逃してしまいそうなヤブラン、ジャノヒゲもユリ科です。豆粒のように小さな花に近づいて見れば、その色と造形にきっと心ひかれることでしょう。

 

 やがて庭園に秋が訪れると、雅趣のある名をもつホトトギス、キチジョウソウが花をつけます。ホトトギスの名は、花の紫や黄のまだら模様を鳥のホトトギスの胸の模様になぞらえたものであり、キチジョウソウ(吉祥草)は、その家に吉事があると花が咲くという伝説から名づけられたと言われます。

カンアオイの仲間

 カンアオイ、タマノカンアオイ、サカワサイシンは、いずれも常緑の心臓型の葉をもっています。この仲間のフタバアオイの葉は、徳川家の葵の紋に図案化されています。
 カンアオイは、一年中でいちばん寒い季節に、暗紫色の目立たない花を地面に埋もれるように咲かせます。この花粉は、虫や風によらずカタツムリやナメクジによって運ばれるので、広がり方は非常に遅く、数平方メートルの範囲でさえ数千年もかかると言われます。このため、分布は限られており、この葉を食草とするギフチョウもごく限られた地方にしか生息しません。
 タマノカンアオイは、多摩川付近の丘陵に自生しているのを牧野博士が発見、命名されたものです。サカワサイシンは、高知県の限られた地方だけに生育する珍しいもので、博士が郷里の高知県佐川町で発見し、命名されたものです。記念館前の樹林の中に生育するこの株はまさしく博士自らが、郷里佐川町から持ち帰られたものでしょう。タマノカンアオイ、サカワサイシンは、カンアオイと異なり、4~5月ごろ、花をつけます。
 四季に移り変わる花々を思い浮かべながら、庭園の草木たちに目を向けてみてください。

昭和60年7月11日号区報
※写真は上段:「バイモ」、下段:「ホトトギス」

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